春永すぎて何が悪い?
駅前で及川くんが待っていた。

私を見つけてほのかに笑顔になる。

私は及川くんに歩み寄る。

「ごめん、急に。」
「全然。いつでも来てよって言ったし。」

いつもよりラフな白いTシャツに、グレーのパンツ。
部屋からフラッと出てきたような格好。
及川くんのヒゲの口元が笑う。

さりげなく、自然に手を繋がれる。

「うちちょっとここから歩くよ。」

そんなことを言いながら、途中コンビニ寄って線路沿いの彼の家へ向かった。

入った瞬間、玄関でフワッとレモングラスの香りがした。

シンプルでモノがなくて、服だけアパレルショップみたいに飾られるように収納されてる。

男一人暮らしだと、こんなにモノがないんだ。

うちの生活感溢れる部屋とは違う。
台所も、自炊してないんじゃないかと思うほど何も出てなかった。

ベッドの上。
大きな絵が飾られてる壁際にもたれかかる。

あー、着替え持ってこなかったなーなんて思いながら。

いつか家に帰らないと。

「何あったの。」

及川くんが私の隣に座る。
少し当たる腕と腕。

「なんか、龍樹、やっぱりダメだった。」

私はそう言って隣の及川くんの目を見る。

及川くんが私の目を見る。
その後に私の唇を見た。

なんでこの気持ち、及川くんには通じるのに、龍樹には通じないの。
< 44 / 61 >

この作品をシェア

pagetop