春永すぎて何が悪い?
玉手さんの足取りがまあまあフラついてたから、タクシーに乗る。

玉手さんと俺を乗せたタクシーが、マンションの目の前で止まる。
俺がカードで料金を支払ってる間に玉手さんがフラフラ降りた。

酔いがかなり回ってるようだ。

吸い込まれるようにマンションに入りそうになるから、俺は急いでタクシーを降りた。

エレベーター降りてすぐ。

「ここ、ここー。」

玉手さんがそう言って3階の一番手前の部屋のチャイムを押す。
ピンポーンという呑気な音の後、少ししてゴソゴソと人間の音がした。

「はい。」

眠そうな龍樹がドアから少し顔を覗かせる。

俺の目を見た後、足元で座り込んでる玉手さんに視線を移す。

「え、なんで。」

しゃがみこんで玉手さんを抱き抱えようとしながら、玉手さんが上手く話せる状態じゃないと判断したのか俺の方を見上げた。

「今まで飲んでたんですけど、なんかもう『龍樹』『龍樹』うるさいんで連れてきちゃいました。」

俺がそう言うと、少し何か考えたように黙ってから「そっか」と答えた。

「ほら、もう子どもじゃないんだからさー、自分の足で帰ってこようよ。」

そう言って玉手さんを無理矢理立たせて部屋の中へ入れようとする。
そして思い出したかのように振り向いた。

「及川くん、ご迷惑をお掛けしました。ありがとうございました。」

感謝されて呆気に取られる。

「いえ、はい。」
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