春永すぎて何が悪い?
龍樹はすぐに慣れた手つきで玉手さんの靴を脱がせようとしたけど、玉手さんはフラついて玄関に座り込んだ。

「もー、どんだけ飲んだの。」
「ちょっと。これくらい。」
「それちょっとじゃないでしょ。」

そう言って笑い合う二人の空間を目の当たりにして、俺には入り込めない世界だと知る。

「あの・・・」

閉まりかけたドアを俺は手で押さえた。

「ちゃんと捕まえておかないと、俺が奪いますよ。」

最後の龍樹への負け惜しみ。

「言うねえ。」

龍樹が余裕ある笑みを返す。
それが悔しかった。

俺は静かにドアを閉めて、その場を後にした。
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