トライアングル 上
【第1章】 開扉(かいひ)




「キーッ!」


"野球部"と書いてある部室の扉を開く。
窓から朝日が差し込み、眩しさで目を細めながらも、しかめっ面で部室の中を覗く。
開かれた雑誌、脱ぎ捨てられた服、バットやグローブが乱雑に散らかったいつもの部屋。
その中央、背もたれもない物が積まれた、机と化している長椅子の横に埋もれるように座る少女の姿。
その少女の名は三嶋梨緒(みしま りお)。
「あ!おはよう!早いね。一番乗りだよ。」
屈託のない笑顔で此方に手を降る姿に思わず頬を赤らめ無言でただ手を振り返す少年。
梨緒はその姿に口を猫のように丸くし、
「よろしい」と、言うかのように首を縦に振り傍らに置いてあった雑誌の束を抱え掃除の続きを始める。
「ったく、よくこんなに部屋を汚せるわね〜。しかもこんな雑誌ばっかり集めちゃって、、、。」
床に散乱したピンクの雑誌。表紙には見覚えのある水着の女性が写っている。
『ヤベッ!』
思わず出そうな声を押し殺していると、背後から男が声を掛ける。
「それ、亮輔(りょうすけ)のじゃぜ!」
驚き、慌てふためく亮輔。振り返るとそこには「してやった!」と言わんばかりに笑う少しガタイのいい男。
「祐介(ゆうすけ)!てめ〜いつからいやがった!」
そんな祐介の表情に思わずカッとなり胸ぐらを掴み開いたドアに押し当てる亮輔。
「バカ言え!わしが一番乗りじゃ!」
吐き捨てるような物言いで睨みつける祐介。
細身の亮輔も負けじと睨み返す。
「俺が一番だ!」
「ちょっと二人ともやめて!!」
あわてて抱えていた雑誌を床に置き、飛び上がるように立ち上がる梨緒。
そんな梨緒の制止を振り切り、
「ちょっと来いや!」と、勢いよくバタン!と部室のドアを閉めた。



そんな3人は幼なじみ。
小さい頃はよく遊んだ。
どこへ行くにも何をするにもいつも一緒。
楽しかった日々。

それから月日が経ち、一緒に始めた野球で、
身体の大きく育った祐介はバッターに、
細身だが頭の良さと器用さで亮輔はピッチャーに、
そして梨緒は2人を支えるようにマネージャーになった。

しかし中学へ上がり、お互いが力をつけ、4番バッター、
エースピッチャーに成長した頃、
3人の関係に異変が起こる。



「それでは発表します!」
毎年3人が通う泉姫中学で行われる"ミス泉姫中"選手権。
軽快なドラム音、スポットライトの光が赤と黒の幕が張られたステージの上をダンスを踊るように駆け巡る。
そんな全校生徒が見守る中、ステージの上に立つ梨緒の姿。


校舎の裏、青々と生い茂る大きな桜の木の下には
祐介と1人の少女の姿。
吹く風がゆさゆさと枝を揺らす。
少しの沈黙の後、頭を掻きながら困った様子で女子に告げる。


3-Aと書かれた教室の中、楽しげに話す男女のグループ。
「私はちゃんと話したんだからね!みんなもちゃんと教えてよ!」
他の生徒が帰宅する中、6人で何やら話をしている。
「じゃあ、次、亮輔な!」
「俺!?」
目をパチクリさせながら、頬を赤らめ、目線をそらし、
うつむきながら亮輔は言う。

「今年の"ミス泉姫中"は、、、。」

「すまんの、、、わし、好きな奴がおるんや、、、。」

「、、、俺の好きな人は、、、3-Bの、、、。」


     「三嶋梨緒!!!」


誰もが認めるほど美しく育った梨緒。
2人はそんな梨緒を好きになってしまう。

それが周りから伝わり、、、。

「おい!おめ〜梨緒の事が好きらしいの〜。」
廊下で友人と話をしている亮輔の肩を急に力強く突っぱね
祐介が眉間にシワを寄せ突っかかる。
「おめ〜のようなヤワな身体じゃ、梨緒は護れへんわ!」
初めは全く状況が掴めない亮輔だが、
祐介の喧嘩腰の態度に触発され、
「てめ〜のようなバカじゃあ梨緒は付いて来んわ!」

親友に裏切られたような感覚と自分に付いた自信とで
いつしか2人は美しい梨緒を巡って争うようになった。
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