トライアングル 上
「!!」
祐介の攻撃的な発言に驚きのあまり、
自分がサーブ権にも関わらず身構える亮輔。
「、、、、!!」
女神も何も言えず両者を交互に見つめる。
「、、、、。」
静まり返った体育館。
ターン!
そこに響き渡る音。
ターン、ターン、
その音は少しずつ間隔を縮めていく。
タン、タン、タン。
それは祐介の足音。
祐介はラケットを持って背中を丸めた低い姿勢のまま
両足で小刻みに跳躍を始めた。
「!!」
亮輔はその行為に圧倒されながら、見た事がある跳躍の名を呟く。
「!!、、、、スプリットステップ!!」
"スプリットステップ"
分かりやすく言うとボクサーなどが両足で跳ねながら相手のタイミングを計るステップのようなもの。
相手のタイミングを計ると共に、跳躍からの沈み込む力を利用して機動性が増す。
ボクシングやテニスでよく見るステップで、バドミントンでもプロの世界では使っているのを見かける。
どこで見たのか、、、?使った事があるのか、、、?
しかし、亮輔が今まで観察してきた祐介の記憶の中で、
使っているのを一度も見た事が無かった。
結果、考えられるのは
「、、、進化している。」
祐介の記憶の中にある知識。
それはバドミントンに限らずスポーツ全般で。
その中から一番効率のいい方法。
勝てる手段を本能で感じ取り実演する。
おそらく、そこには勝算などは無かったのかもしれない。
しかし、相手の圧倒的な強さ、それに勝ちたい気持ち。
そこから出た強気の言葉。
相手を気押しするには十分だった。
亮輔の脳裏に焼き付いた記憶が蘇る。
赤と黒のラバーの貼られたラケットを持ち、『ごめん』と謝る祐介。
防具を着けたまま仁王立ちしている祐介。
「どれだけ!」
そして、幼い日、バドミントンのラケットを持ちながら悔しさで押し黙る亮輔。
その幼き亮輔が顔を上げる。
そこに映る祐介の表情。
それは今でも鮮明に覚えている。同情のような哀れみのような表情。それは卓球の時も、、剣道の時も、、
「どれだけ、屈辱を味わって来たと思う!!」
悔しさを滲み出し、手を震わせながら亮輔は力強くサーブを打った。
「は〜い!じゃあ、今年の6年2組の出し物は"白雪姫"に決まりました!」
毎年泉姫小学校の学芸会では6年生が劇を行う。
演目は各クラスで話し合い、配役は立候補、なければ推薦で決める。
基本はこう言うとき、これ位の年代だと、
「じゃあ立候補はないと言う事で、、、推薦を行います。」
恥ずかしいという思いと集団の心理が働き、立候補するのが難しくなってくる。
このような場合、泉姫小学校ではプライバシーなども考え、あらかじめ匿名のアンケートを配り、
どの配役は誰がいいか多数決を取る。
「では、各配役の1位はこのようになりました。」
主役の"白雪姫"から順に配役が黒板に書かれていく。
"白雪姫" 三嶋 梨緒
"王子様" 櫻井 亮輔
この頃すでに文武両道だった亮輔は王子様のようなアイドル的存在。
もちろん梨緒も可愛さで男子に人気があった。
周りも認めるベスト配役。
しかし、
問題があった。
「いや〜〜。これは困ったわね〜〜。」
一通り書かれた配役の推薦1位。
そこにはもう一つ亮輔の名前があった。
「亮輔くんが"王子様"と"監督"かあ〜〜。」
亮輔は文武両道ゆえに学級委員なども経験し、
クラスをまとめる存在。
そこも周りが認める配役。
「確かに"監督"とか、亮輔くんにしかできないわよね〜。」
もちろん梨緒とは幼馴染で照れくさいと思いながらも、やりたいのは"王子様"の方。
しかし、亮輔くんしか出来ないと言われると"監督"も断りにくい。
"選手兼監督"という配役があればよかったのだが、
これは学芸会。
みんなに平等に配役が与えられる。
「じゃあ、どちらかを違う子がやって欲しいんだけど、、、。」
その問いかけにどこからか答えが返る。
「、、、"王子様"は祐介くんがいいと思います。」
「!?」
亮輔は左右と後ろを振り返り言葉の主を探す。
「、、、何で祐介、、、。」
しかし、満場は意外な展開をみせる。
「そうですね。実は"王子様"の次点は祐介くんだったんですよ。」
その言葉に納得したのか、させられたのか、
「じゃあ、"王子様"は祐介くんがいい人。」
そこに亮輔を"王子様"という人は一人も居なかった。
そして当日、、、
それまで練習をしてきた成果を見せるべくセットの裏で
懸命に指示を飛ばす亮輔。
セットの向こうでは意外と衣装の似合う祐介が
力強く完璧な演技を演じる。
そして最後のシーン、、、。
そこには幸せそうな"白雪姫"と"王子様"がいた。
「、、、、俺は何をしてるんだろう、、、、。」