トライアングル 上
「いつもいつも!俺の手柄を横取りしやがって!!」
スパーン!
力強くコートの奥に向けシャトルを打つ亮輔。



タンタンタン、、、。
祐介のコート"円"の右上へ向け飛ぶシャトル。
それをリズムよく小刻みにジャンプを刻み、
ジャンプの沈んだ反動を利用して跳ねるように打球へ回り込んだ祐介。
スパーン!
バックハンドでさらに力強く打球を対角へ打ち返す。
そしてすぐさま
ターン!
ステップでコートの中央に戻る。



狙い済ましたかのように亮輔は祐介の打球に追いつき、
スパーン!
今度は"円"の左上に左右に振るように力強く打球を散らす。

力と力の応酬。
意地のぶつかり合い。

"先読み"でなんとか点を取りたい亮輔。
しかし、"スプリットステップ"を踏むことで祐介はコートの中央に陣取り、
『勝ち方1,オープンスペース』はすでにほぼ作れない。
『勝ち方2,長所をつぶす、短所を攻める』に関しても
先程から何度もスマッシュを打ち足止めを試みるも、
その瞬間は足止め出来るものの"スプリットステップ"での
初速、動き出しの速さが上がっている為、
以前よりも許容範囲が増え、死角が見当たらない。
「ならば、、、!」


スパーン!

亮輔から祐介に返された打球。
その球は先程と全く同じフォームにも関わらず、先程までのスピードがない。
タンタン。
ワンステップ、ツーステップ、
そのスローな打球に慎重にタイミングを合わせる祐介。
スパーン!
祐介の打球も慎重を期した分だけ心なしかスローになる。



もちろん打球には亮輔が追いついている。
「"スプリットステップ"は一定のリズムを刻む。」
ネットを超えたと同時に
スパーン!
スマッシュにも近い、先程の打ち合い以上の速さで打ち返した球がコートを縦断する。



タン!
急な速球にすぐさま"スプリットステップ"で反応して
"円"の左上から同じように力強く祐介は打球を打ち返す。



返ってきた打球、祐介の姿。全てが亮輔の眼球に映る。
「バドミントンの勝ち方、その3、、、。」



それは見ている女神も気付かない位、
ほんの一瞬の出来事。



しかし、亮輔はそれを見逃さなかった。

「、、、、緩急をつける、、、。」
勢いのある球を見ている時、そんな試合展開。
その時人は緊張感を持っている。
しかし、そこに少し遅い打球を混ぜる事で
一瞬その緊張から開放される。
そこへもう一度、同じような、もしくは早い打球を打つ。
すると、
一瞬緊張から開放された分、驚きと相まって緊張感はさらに高まる。
その瞬間。
「お前はそこに貼り付けになる!!」


一瞬止まったステップの音。
凍ったように固まる祐介の姿。


早い打球はすでに亮輔の元に返ってきている。



祐介には球の行方がしっかり見えていた。

ふんわりと吸い込まれるように亮輔へ返っていくシャトル。


それをそっと、前の打球の速度と差が出るように
今までに無いほど優しく。

「もらった!」
コーン!
その打球を亮輔はそこに置くかのようにカット。 



打球を目で追っていた祐介は動こうとする。
しかし、一度地面にしっかり着いてしまった足がくっついたかのように持ち上がらない。
「うおおおお!」
くっついた足を剥がすように力任せに持ち上げると、
フワフワ落ちていく球めがけて走る!



コートの右端のネット際。
亮輔の見つめるその空間にはもちろん誰もいない。
スローでその打球がコートに落ちていくのが分かる。
「よし!」
取った!
そう思わせた次の瞬間。
スローな画面に
ラケットと腕を真っ直ぐ伸ばし
必死の形相でゆっくりと飛び込んできた
祐介の姿。
「落ちる!」



間に合わないと踏んだ祐介は全力で滑り込むように
前にダイブ!
思いっきりシャトルへ腕を伸ばす。
「届く!」



お互いの思いが交錯する。

そして、ゆっくりとした打球は、、、。


コーン!
祐介のラケットに当たり、ふわんと上った。
その打球はゆっくりと
しかし
しっかりとネットを超える。



しかし、初めからネット間際に居た亮輔。
入った打球に一瞬ためらうも、
「体勢を崩した事には変わりない。」
弧の小さい打球を掬い上げるようにコートの中央に放った。
結果的できたオープンスペース。


、、、、かに思えた。

ふんわり上った打球の下にスーッと現れた祐介の姿。



「!!」
「何でお前がそこにいる!!」
亮輔が眉間にシワを寄せ怒りと困惑を顕にする。



「、、、、回転レシーブ。」
女神がふと呟く。

"回転レシーブ"
主にバレーでよく使われるレシーブ技術。
ジャンプで球をレシーブした後、受け身を取るように
腕を軸に横回転し、体勢を戻す。



祐介は打球を打ち上げた後、
倒れ込む身体をラケットを持つ利き手の反対、つまり左手で、思い切り横に弾く。
その勢いでゴロッと横回転。
しっかり足を畳み、
転がり終える頃には両足が地面に着いていた。

打球の下に潜り込んだ祐介はすでに左手を高く上げ
右手のラケットは肩に抱えるように
打球が落ちてくるのを待ち構えている。



「くる!!」
亮輔はこれから来るであろう祐介のスマッシュに身構える。



ゆっくりと落ちる打球。
祐介の左手はゆっくりと下がり、それと同時に
ラケットと右手が真っ直ぐ打球へ向け伸びていく。
そして、
ラケットと腕が伸びる頂点であろう位置に打球が差し掛かった。
と、同時にその球をピンポイントでラケットが捉えた。

スパーン!



「!!」
亮輔は完全に祐介が打ってくるのは分かっていた。
その為に、いつでも来い!と身構えていた。
しかしどうだ。
コンコンコン、、、。
全く微動だに出来ず、球はすでにコートに転がっている。



「、、、、これが球技最速の球、、、、」
近くにいた女神も完全に目で追えず、入った事を認識するのに時間が掛かった。


この瞬間、、、
「祐介選手21ポイント〜〜〜!!」
勝負は決した。
「21対11で祐介選手の勝利〜〜〜!!」



亮輔の目に焼き付いた光景。
圧倒的なスマッシュ。
圧倒的な勝利。
「、、、なぜ勝てない!!」
亮輔がこの勝負にこだわった理由。
それは勝ちたいという気持ちと同時に勝たなければいけなかった。
なぜなら、、、、

勝利の方程式。
このままいけば亮輔は"サッカー"からの"囲碁"、"オセロ"
はたまた"チェス"で2勝以上!
勝利は確定したはずだった。
しかし、これには条件がある。
それは、、、
『お互いが選んだ競技はお互いが勝利する事。』
お互いが得意な種目で勝利する。そうでなくてはイーブンでは持ち込めない。
しかし、実際いままでの競技でほぼ自分の土俵、得意な競技に持ち込んだ亮輔だが、2勝1敗。
しかもその2勝1敗も偶然のようなもの。
つまり亮輔の土俵で必ずしも勝てるという保証がない。
ならば、祐介の土俵で自分が勝てる。
そういう証明が欲しかった。
しかし、結果は
見るも無残な惨敗。
祐介の競技では勝てない。自分の競技でも負けるかもしれない。
この瞬間、亮輔の勝利の方程式は脆くも崩れ去った。

そして、それと同時に味わったさらなる屈辱。

「、、、股下打ち、、、ノールックバックハンド、、、」
バドミントンの失点、21点を亮輔が振り返る。
「、、、スライディング、、、回転レシーブ、、、。」
祐介が効率を優先して行ったプレイ。
しかし、"スプリットステップ"に祐介が目覚めて以降
1点しか取れず、あと21点打たれ続けた失点。
「、、、バカにしてるのか!!?」
それらは全て亮輔にはおちょくっているようにしか映らなかった。
「ぶざけている!!」
怒りが込み上げる亮輔。
「気に入らない!!」
そして次は亮輔のターンに移る。
「祐介!!提案がある!!」
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