トライアングル 上

1ストライク3ボール。
しかしルール上、
「1ストライク、ノーボールか。」
ボールは何回取ってもファーボールにならない。しかし、ストライクが取れなきゃ意味がない。
亮輔は取れなかったストライクに悔しさを滲ませ、
もう一度計画を練る。
「今回の事で分かった事がある。」
女神から返ってきた球をパシッと取ると今の状況を振り返る。
「まずはどんな状況でも祐介は感情的になってもクールだと言う事。」
祐介をデッドボールで挑発したが
その後ボール球を感情的に振らずにしっかり見ていた。
「これでこの後考えてた手の一つ、『ボール球を投げまくって振らせる』というのも感情を揺さぶっても難しい。」
それによって感情を利用してストライクを取るという手は無くなった。
「あとは、ギリギリのボール球をしっかり見ている。ボール球ばかり投げてもストライクが取れない。」
ボールはノーカウントだが、逆を言えばストライクを取ろうとストライクゾーンに球を投げれば狙って打って来る。
「祐介からストライクを取れそうな変化球はあと1球。」
現にストライクゾーンから外した2球はしっかりと見切られている。
「相手は祐介。一度見せた球は次は対応される。」
一度ストライクを取ったもので次のストライクは取れない。残り1つの変化球で確実にストライクを取る。
そして、難しいのが一本足打法が苦手とする2種類の変化球以外でもう1ストライク。
「学習する祐介に長期戦は禁物。」
亮輔があと1ストライクあと1ストライクと短期勝利方法を考える。
「最短での勝利、、、いや、待てよ。」
そこでふと思いついた。
「違うな。」

祐介はまだ眉間にシワを寄せている。
しかし気付いていた。
おろらく亮輔が『わざと挑発した』事を。
そこでどこかクールになれた。

『ファーボールはノーカウントだよな。』
次、ボールならファーボール。普通ならそれで打者が出塁して終わり。
しかし、今回の亮輔の言葉に女神は

そして祐介も同じく思っていた。
「ボール球を使ってカウントを稼いでくる。」

亮輔が両手を高く上げ、投球のフォームに入る。
祐介、女神はストライクゾーン全てに
隅々まで行き渡るように神経を巡らせる。

身体を大きく開き
重心をバッターへ向け
体重を乗せた球を
投げた!

亮輔の投げた投球が祐介に向かい飛んでくる。
「!!」
その投球は意外にもストライクゾーンど真ん中に向け飛んでくる。

「ど真ん中!?」
女神も意外性に思わず声を出す。

しかし、先程見た"ストレート"と比べ心なしか球速が遅い。
つまり変化球だ。
祐介は左足を高く上げ、じっくり球の流れを読む。 
しかし、一向に軌道は変化しない。
ギリギリまで引きつける。
しかしもう限界だ。
祐介は左足を前に突き出し
真っ直ぐ飛んでくる球を"フォーク"に変化すると読み、
真っ直ぐよりフォークで変化後の下寄りに
バットをスウィング。

亮輔は心で叫ぶ。
「刮目せよ!」
投球は下には落ちない。
が少し変化を見せる。
「これが祐介対策、第2の秘球!」

祐介のスウィングしたバット。
その根本へ向け、球が真横に変化した。

「"シュート"!!」

"シュート"
球を中指と薬指の間で縫い目を真横に握る。
そうする事で"ストレート"の球が右投手の場合、
少し右にズレる。右投手が対右打者へ対し内角へ向け
少しズレる為に有効な投球。









その投球が祐介のバットにヒットをする。
ヒットはするが"シュート"は手元で少し内角寄りに変化する為に、そのヒットはバットの芯から外される。
当たるがつまりはボテボテとしか飛ばない。
祐介の打球もボテッと地面をバウンドする。

亮輔がそれに狙いを澄ましたかのように駆け出す。
そう!亮輔が狙ったのは、
「これを、取ってタッチアウト!」
祐介を仕留めれる変化球があと1つしかないのなら
これでアウトにすればいい。
ストライクは無理に3球取る必要はないのだ。

ボテボテとした球が走り出した祐介の足元で1バウンド、
2バウンド。
その横を祐介が走り抜ける。

「キャッチしても追いつける!」
"障害物競争"でもあったように、祐介より亮輔の方が
足は早い。
打球を読んで走り出した亮輔なら取ってから追っても追いつける!
その打球は思った通り打者の足元。
3バウンド、4バウンド、、、。
亮輔が弾む球をキャッチ!
「よし!」
走りだそうとした瞬間!

「ファール!」
女神の高らかな静止が入った。

走り込んでいた祐介が振り向く。





亮輔も足元を見る。
辛くも4バウンド目のボールの跡は
ファールの線が引かれた白線の外でバウンドしていた。
「くそっ!」
もう少しで勝利が見えていただけに悔しい亮輔。

祐介は少し息を切らせながらバッターボックスへ戻ってくる。
何かを考えているように無言で眉間にシワを寄せている。

亮輔もその球を持ったままマウンドに帰る。
「これで一応2ストライク、、、。」
ファールはルール上、2ストライクまでは加算される。
スコアは2ストライク3ボールのフルボール。
しかし、それ以降は何度ファールを打とうがアウトにはならない。
本当はこれで終わらせたかった。
これで亮輔が対祐介用に用意していた手元での変化球は全て投げてしまった。
「この変化球もファールなどを重ねていけば、目がなれた祐介に対応されてしまう。」
「かと言ってボール球はしっかり見切られる。ストレートの勝負でも打たれてしまう。」
追い込んでいるようで追い込まれている。
「しかし、1つ言えるのは、、、。」

2ストライクになり祐介も追い込まれていた。
「あと、1ストライク、、、。」
事実、手元での変化球に現時点では対応しきれず
2ストライク取られている。
手元で多彩に変化する変化球。
それはまるで祐介を打ち負かす為に考えて鍛え上げられたもののように感じた。
「亮輔、、、!!」
その自分と対峙する時の為の執念ともいえる投球に、
「必ず打ってやる!!」
逆に報いるように燃え上がる祐介。

「手元での変化は、、、弱点は弱点。」
フーッ!緊張を解す為か、気合を入れる為か、亮輔は大きめな深呼吸をする。
何を投げるか。出し切り何もない。後もない。
そして、相手にもう一度、向き直ると、
まるで隅々まで相手のデータをとるように
じっくり見つめる。
今までの投球から、これからの未来の投球。
過去、現在、未来。
どこまで計算しているのか。どんな展開になるのか。
予測もされないほど無表情に静かに。
ストレートは目で見切られてる為、打たれるかもしれない。
ボール球ではストライクは取れない。感情でもブレない。
変化球でファールを誘っても、いつかは修正して打たれる可能性は高い。
亮輔が静かに再び両腕を大きく振りかぶる。
「ならば、そこを攻めさせてもらう。」
祐介の弱点の"手元での変化"に慣れる前に勝負を決める!
緊張の1球。
身体を大きく開き
重心をバッターへ向け、
今までで一番の
体重の乗った球を
投げた!
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