ごきげんよう、愛しき共犯者さま
「千景」
久しく聞くそのトーンにびくりと肩が揺れて、意識が浮上した。
斜めに傾いた視界の中で、ひどく不機嫌そうな表情をした兄が私を見下ろしている。私を見たあと、視線を左へ。
左に、何かあるのか。
ぼんやりとした頭でそんなことをぼんやりと思った瞬間、その存在を思い出した。
「っ」
途端、急激に重力がかかった左肩。
重いと素直に感じるそこへと視線を向ければ、私の肩に頬を預け爆睡している蒼汰先輩の頭頂部が見えた。
「蒼汰」
「っせ、先輩!」
「……ん、あ?」
げしっ、と兄が先輩を軽く蹴った。
それと同じくして、左肩を上下させて先輩の頭を揺らせば、何とも無防備な声がこぼれ落ちていく。
「……っあ! ごめん千景ちゃん。俺、もたれかかってたよな……つうか、寝ちまってた」
「い、いえ、私が先に寝てし」
「蒼汰。月島が探してた。はよ行け」
「え、マジか。分かった。じゃあまたな、千景ちゃん」
「あ、はい、また」
どれくらい眠ってしまっていたのか。
それを確認する間もなく、兄に蹴られ「はよ行け」と急かされた蒼汰先輩はゲーム機を隠そうともせずに、バタバタと屋上から出て行った。
「千景」
その背中を見送って、はたと気付く。
「蒼汰とふたりで何してた」
「え?」
「俺を、撒いて、蒼汰と、何してたんだ、って聞いてんだよ」
そういえば、兄に見つかっているではないか、と。