ごきげんよう、愛しき共犯者さま
あまりにも自然に話しかけられて、しかもその内容が文化祭のことだったから、私は忘れていた。視覚からの情報を遮断するために兄を遠ざけ、間接的にでも兄の周りには関わらない、見ないようにしていてことを。
「海鋒くん」
声のした方へ揃って視線を向ければ、そこにいたのは、にこりと美しく微笑む月島先輩だった。
艶やかな黒髪、アーモンド型の瞳、ふっくらとした唇、スベスベの肌、豊満な胸。さすが、学校一の美人と言われるだけあって素晴らしいルックスとプロポーションだ。
「あ、月島さん」
「その格好、どうしたの?」
「うちのクラスの出し物。執事喫茶」
「そう、なんだ……すごいね、カッコいい」
「へ」
「あ、いや、あの、」
ぽかりと口を開けて、ちょっぴり間抜け面を晒したあと、みるみるうちに赤く染まる蒼汰先輩の顔。それを見て、わたわたし出した月島先輩。思わずといった様子で呟いた月島先輩の言葉に対して、「へ」とか言っているけど、がっつり聞こえていたに違いない。
ごちそうさまです。
ふたりのやり取りから視線をそらして、ひっそりとため息を吐く。
会釈したことがあるくらいで、会話らしい会話をしたことはないけれど、この人は素敵な女性なんだと思う。あの兄が想いを寄せるぐらいなのだから、きっと、そうだ。
「蒼汰先輩、私、もう戻りますね」
「え、あ、おう」
いいな、羨ましい。
感じたそれと同じくらい、ろくに話したこともない、よく知りもしないこの人が妬ましくて、憎い。
催した吐き気を必死に堪えながら、ペコリとふたりに向かって頭を下げた。