ごきげんよう、愛しき共犯者さま

 好きな人、の、好きな人。
 たったそれだけで、こんなにも誰かを妬んで、嫌いになって、憎めるなんて、私は知らなかった。

「……っ、ぇ、う」

 駆け込んだトイレの個室で、腹の底からせりあがってくるそれを吐き出す。
 びちゃ、べちゃり。便器の中で浮いている黄色い花を見つめながら、携帯を取り出して、検索窓に【黄色い花】を打ち込んだ。

「……あっ、た、」

 オトギリソウ。花言葉は、敵意。
 個室の壁にもたれかかって、すいすいと画面をスクロールする。他にも、迷信、秘密、恨み、という意味もあるらしいけれど、一番しっくりくるのはやっぱり、敵意、なのだろう。
 カタクリという花を吐いた日の夜、寝る前に、兄が言っていた。吐く花は、吐いた者の感情そのものらしい、と。もちろん、らしい、だから、絶対にそうだとは言いきれない部分もある。けれど、仮にそうなのだとしたら、私は感情を吐いているということになる。

「……なくならない、なぁ、」

 吐いて、身体の外に出しているのに、どうして私の中にある感情はなくならないのだろう。
 レバーをひねり、水を流せば、ぐるぐると渦巻いて黄色い花は底へと吸い込まれて消える。跡形もなく、キレイさっぱりと。

「……も……やだ、よぉ、」

 こんな風に、私のぐちゃぐちゃでどろどろな汚い感情も、流れて消えてしまえばいいのに。
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