ごきげんよう、愛しき共犯者さま
自己満足と書いて【めいわく】と読みます

 極力、教室から出ない。万が一、姿を見かけたら気付かれる前に撤退する。
 そうやって(くだん)の人物達との遭遇を回避しながら迎えた文化祭初日。

「……もっ、望月(もちづき)くんが、好き、です……!」

 出し物の当番中、喉が渇いたからと当番の六人分のジュースを買う係を決めるジャンケンにひとりパーを出し、完膚なきまでの敗北を味わった私は一番近い自販機を目指してやって来たのだけれど、聞こえてきた己と同じ名字とそれに続いた言葉に、思わず校舎の壁に張り付き、息を潜めてしまった。
 望月、くん(・・)
 ということは、兄か、もしくは別の望月(男)か。
 同じ一年には、多分いない。二年と三年は知らないけれど、心臓がざわざわするのは、何となく予感しているからなのだろう。

「……悪ぃ、俺、好きな奴いるから」

 やはり前者だったか。
 聞こえた声にひっそりと息を吐く。
 いや何となくそうかなとは思ったし、兄が誰に好かれて誰に告白されてようが私には全くもって関係はないのだけれど、せめて自販機の前はやめて欲しかった。
 出るに、出れない。自販機は目と鼻の先なのに、近付けないこの絶望感。違う場所にある自販機は遠いし、ジュース類を六人分持って帰ることを考えれば、この自販機はどうしても譲れない。
 好きなだけ文化祭あるあるを満喫してくれていいけどさ、頼むから別のとこでやってくれないかな。

「いい趣味してんな、千景」
「っお、にぃ……ちゃん」
「またジャンケンに負けたのか」

 頭の中で独りごちて、兄と見知らぬ女子がその場から立ち去ってくれるのを待っていれば、いつから気付いていたのか、兄がにたりと意地悪な笑みを浮かべていた。
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