ごきげんよう、愛しき共犯者さま
そっかぁ。
自身のことではないのに、とても辛そうにそうこぼした医師は「気休め程度だけど、症状を軽くするお薬出しておくね」と薬を処方してくれた。
程度というか、気休めそのものだろう。酔い止めの類いだと思う。あれだ、プラシーなんたらってやつ。病は気から、だとか、言い得て妙だ。己の感情ひとつで花を吐くなんて。
「あら、伎、今から出掛けるの?」
薬局で薬を受け取り、バスに揺られて八分、徒歩二分。たどり着いた自宅の玄関前に兄がいた。手に鍵を持っているから、おそらく今から出掛けるのだろう。兄はちらりと私を見て、すぐに母の方へと視線を向けた。
「コンビニ」
「そう、気を付けてね」
「ん」
短く返事をした兄の気配が、私達の横を通りすぎる。
安定の、無関心。相変わらずの兄の態度に、今日ばかりは安堵の息を吐く。
「じゃあ、千景も早くお薬、飲みましょう」
さすがに、目の前で吐きたくはなかった。
感情の起伏。特に、想い人を見たり、話したり、関わったときに吐くことが多いという統計がでているのだと聞かされたあとならば、なおさらだ。
「…………うん」
実の兄が好き、だなんて。
花を吐く以上の衝撃でしか、ないだろうから。