ごきげんよう、愛しき共犯者さま
チャンスが多くないことには早々に気付いた。
通学バックに忍ばせるなら、チャンスは一日の内でたったの一度。兄がお風呂に入っているときだ。となると、手紙はそれよりも前に書かなければいけない。しかし夕飯前と後の一時間は何故か未だに私の部屋で勉強をしているから、厳密に言うなれば帰宅後の小一時間しか書く時間がないということになる。
まぁ、たったの四文字だし。
そう思って、帰宅後、自室で真っ白な便箋を取り出して、友人の筆跡を思い出しながら件の四文字を書いた。
便箋の上部に、たったの四文字。九割くらい余白で形成されているそれを目線の高さに持ち上げて眺めれば、友人の筆跡を全く真似できていないことに気付く。やはり見本を見ながらでないと難しいのか、どこからどう見てもそれは私の字だった。
これは、ダメだ。すぐにバレる。やっぱり、友人にノートでも借りて見ながら書くしかないな。
「千景」
「っ!」
そう思って便箋を机の上に置いた瞬間、真後ろから聞こえた己の名前と、それを紡いだ声に、びくりと身体が揺れた。
「……それ、蒼汰に?」
一応、便箋を裏返してみたけれど、どうやら無駄な足掻きだったようだ。振り返れば、私ではなく机の上の便箋を形容しがたい表情で見下ろしている兄の姿。
「……ノックしてよ」
「したけど、返事しねぇから」
「返事なかったら普通は入らないんだけど」
是も否も言わず、ノックがなかったことへの文句を垂れる。けれども兄は、悪びれる様子もなく、便箋に触れた。
「っちょ、」
「ダメ元で告んのか?」
我が兄ながら、なかなかにデリカシーのない男だ。