ごきげんよう、愛しき共犯者さま
項垂れた私の頭部の真下にある、色とりどりの花達が見えたのだろう。
じゃり、ざく。ほんの一瞬だけ止まった足音は、背後から左側へと移動して、そこからさらに私の正面へとやって来た。視界の下部には花、上部には兄の靴先。それを認識してから瞬きをすると、自分のものではない手がそこへ侵入していた。
「っダメ!」
触ると、感染。
そのフレーズが浮かんで、咄嗟に手で花達をかき集めたけれど、相手の動きを認識してからの行動では、何もかもが遅すぎた。
「……ガマズミ……マリー……ゴールド、」
白い花と黄色い花が兄の手によってぐしゃりと潰され、指の隙間から、ひらりはらりと花弁を散らす。
兄が、触ってしまった。感染、してしまった。
どくりと心臓が揺れる。
感染しても、発症しない確率の方が遥かに高い。そもそも発症する条件がなかなかに稀なものだ。心配ない。確かに兄は片想いをしているけれど、普通に、さっきみたいに笑い合えているのだから、拗らせてはいないはず。
「……そんなに、あいつがす……っ、ぅえ、」
そう思い直して、己を落ち着かせたのに。
「……おにい、ちゃん、」
再び兄が口を開いたかと思えば、ぼとぼとと兄の口から地面へと落ちていった、白、赤、ピンクの花。色は違うけれど花自体は全て同じそれ見て、「ほんと、くそだな」と兄は嘲笑をこぼした。
「……何で、お兄ちゃんが……吐いて、」
「お前の、せい、だわ、」
何故。思ったことをそのまま音にすれば、視線と共に私を責める言葉も向けられた。