ごきげんよう、愛しき共犯者さま
急かされて飲んでしまったけれど、もう、飲むつもりはない。あとでこっそりトイレに流すとして、「部屋で横になってるね」と母に一声かけてから自室に籠った。
天井を見つめながら、思う。せめて、他人を好きになりたかった、と。
「……高校……違うとこにすればよかった」
まさか花を吐くなんて思うわけもなかったから、高校も兄と同じだ。デザイン科があって家から近いのが兄の通う高校しかなかったからそこに決めたけれど、こうなると分かっていたら、絶対違う高校にしたのに。
「……何で、好きなんだろ……あんなやつ、」
小さい頃は優しかった。だけど、年頃と呼ばれる年齢になったあたりから、私は、兄の世界からフェードアウトさせられた。世間一般で言えば、反抗期というやつだったのだろう。実際、中学の頃は私だけじゃなく、父や母に対しても同じような態度を取っていたから。でも、高校に入ったあたりからは、私だけが、兄の世界への出入りを禁止されていた。
「……慰謝料……請求したい」
そもそも、私が自分の気持ちに気付いたのは、兄の、そういった態度が原因だ。
兄は、私に関心を持たなくなった。同じ空間にいても、視線は合わないし、言葉だって交わすことがない。唯一することといえば、位置を確認するための一瞥だけ。それが、馬鹿みたいに辛かった。無視をされているわけじゃない。用事があれば話しかけてくるし、必要な会話であれば応えてもくれる。でも、関心はない。
好きの反対は嫌いではなく無関心だと、誰かが言っていたけれど本当にそうだと思う。
「…………そういや、リビングで吐いた花、捨てたっけ」
カーペットの上に散らばった黄色い花弁を思い出しながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。