ごきげんよう、愛しき共犯者さま
はくり、唇が動く。
けれど、音は吐き出せず、ただただ、警察官がかぶっている帽子を見つめた。
妊娠。
その一言は、本来、喜ぶべき言葉のはずなのに。
「……もし、お付き合いされていた方にお心当たりがございましたら、その方にもご連絡を、」
「……いえ、」
息子の伎が、大学への進学を機にひとり暮らしを始めた。その二年後、同じように千景も伎の通う大学へと進学し、男ならともかく女のひとり暮らしは危ないと心配した私と妻に、「お兄ちゃんとふたりで暮らすから心配しないで」と言った。
月に一度は、ふたり揃って顔を見せに来てくれていた。連絡だって、最低でも三日に一度は取り合っていた。
「……全く、ありません」
だけど、言われてみれば、伎も千景も、そういった話は一切なかった。