ごきげんよう、愛しき共犯者さま

「……千尋、」
「……わ、私には、無理よ……あなたが、読んで、」

 手続きに必要な書類を用意するからと、通された個室。長方形の簡易な机とパイプ椅子が置かれたそこで、息子達が遺したものを見ようと声をかけるも、妻はそれを拒んだ。
 両手で顔を覆い、ぐすりと鼻をすする彼女との初めての遭逢(そうほう)も、遺体安置室だった。
 彼女の元旦那、千景の実の父親と、私の元妻、伎の実の母親が不倫していたことを知ったのも、その日だった。伎は二歳になったばかりで、千景はまだ、千尋のお腹の中にいた。
 どん底だった。裏切りと死。ふたつの意味を持って愛する人間を失った。けれども前を向かなければと、不貞をされた者同士、新しい家庭を築こうと提案したのは、果たしてどちらからだったか。
 ルールを決めた。
 本当の家族のようになろう、と。
 良いのか悪いのか、人には幼児期健忘というものがある。子供達には私達が話さない限り、血の繋がりがないことは知られやしない。だからこそ、徹底した。
 家族で、あるために。

「……分かった……読むよ」

 何が、いけなかったのだろう。
 その問いの答えを求めるかのように、びり、と封筒の上部を破いた。
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