ごきげんよう、愛しき共犯者さま
はらり、ひらり。
手から紙が落ちて、空を舞う。
「っ、あ、あ、あああっ!!」
かくりと膝が折れた。
パイプ椅子が派手な音を立てて転がったけれど、関係ない。
床に突っ伏して、馬鹿みたいに声を荒げ、叫ぶ。
「っどうかされましたか!?」
騒音に気付いたのだろう。ドアが開くような音がして、聞き覚えのない声が聞こえた。そのすぐあとで、「あ、あなた……?」と私の様子を伺うような妻の声が聞こえたけれど、腹の奥底からせりあがってくる声は己にも止めることはできなかった。
── 妊娠、していたようです
── 俺と千景は兄妹です
── 千景がなぜ、死ぬことを選んだのか
伎と千景は、血の繋がった兄妹だと思いつつも気持ちを伝え合い、精神的にも肉体的にも愛し合っていたのだろう。そして、千景は伎の子を身籠った。
けれど、自分たちは血の繋がった兄妹。千景は、お腹の子と共にこの世を去ることにしたのだろう。産めない、と。そして子共のことを伎には話していない。だから伎は、漠然と自身のせいだと思いながらも、明確な理由は分からないまま、千景のあとを追ったのだろう。
「っう、あ、ああ、」
まさか、と思った。
けれど、真っ先に浮かんだ仮定は何よりも真実味を持っていた。
「っだ、大丈夫ですか!?」
「あ、あなた!?」
ひゅっ、と喉が絞られる感覚に陥った。
「大変だ、過呼吸をおこしてる」
家族に、なろうとした。
家族に、なりたかった。
家族に、家族に。
「っ誰か! ちょっと! 来て!」
そんな、私のエゴが息子達を殺した。
私の描いた、求めた、幸せの、せいで、彼らは、死んだ。
「あなた! あなた、しっかりして!」
ああ、神さま。
これが、二十年間の幸せの代償だと、あなたは、おっしゃるのか。
ーAfter story 終ー