ごきげんよう、愛しき共犯者さま
おや……? 想い人の様子が……?
コンッ、と短く響いた音で、意識が浮上した。
「……ん、」
眠って、いたのか。
それを認識したのとほぼ同時に、また、コンッ、と短く音が響く。
どうやら、扉をノックされているようだ。まぁ、私の部屋を訪ねてくるのなんて、母しかいないから「ご飯できたよ」の合図なのだろうけれど。
「……はい、はい、何? もう、」
返事をしなかったからか、コンッ、と響く、三度目のそれ。
ベッドから降りて、扉へと向かい、気だるげな声を吐き散らしながら扉を開けた。
「よお」
「……え、あ、おにぃ……ちゃん、」
「メシ」
「え」
「持ってきた」
「え」
廊下から部屋の中へ差し込む灯りを妨げるように立っていたのは、母ではなく、兄だった。
え、何で?
予期せぬ出来事に呆然とする私を華麗にスルーして、左手に持っているおにぎりと卵焼きののったトレーを見せながら、兄は人よりちょっぴり長めの足を扉にひっかけて全開にした。
「ちょ、いいよ。自分で、」
「テーブル」
「え」
「あの折り畳んでんの、そうだろ? 出せ。メシ置く」
さも当然のように部屋に入ってきた兄を慌てて制止するも、トレーを置く場所を作れと指示される。
「あと、薬」
「……薬、」
「飲むの見張れ、って母さんが」
いや、とりあえず勉強机に置いてくれればいいよ。
声に出さず、視線でそれを訴えれば、それが通じたかどうかは知らないけれど、兄は少しだけ眉をひそめ、ため息と共に続く言葉を吐き出した。