捨てられママのはずが、御曹司の溺愛包囲で娶られました

「少しだけで構いません。お時間を頂けませんか? なかなかお互い忙しい身ですよね」
私だってこの仕事が重要な案件であり、東和グループと言えば、分野こそ違うが、大村グループに並ぶ大企業であり、この人はその御曹司だ。もちろん私が断れるわけもない。それに、わざわざ出向いてきてこう言っている人と、廊下で立ち話など少し考えればあり得ないことだ。私はなんとか気持ちを抑えると、いつものポーカーフェイスを張り付ける。

「お茶を用意してきます」
専務たちを中へと促しつつ、私が口を開くと専務が二人を中へと案内した後二人に聞こえないぐらいの声で私に問いかける。

「大丈夫か?」
今ではすっかり私の気分を察知してしまう専務に、今日ばかりはわかって欲しくはなかった。そんなことを思いつつ、私は少しだけ微笑をうかべた。

「何がですか?」
そんな意地を張ったような私の答えなどお見通しだったのだろう。
専務は小さく息を吐くと「お茶をよろしく」それだけを言うと、東和社長たちの元へと歩きだした。
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