君がいなくなった後の世界で

その時のことを、思い出すだけで涙が出てくる。

瞬が助けてくれたお陰で、子猫は無事助かった。

なのに、瞬は電車に轢かれて亡くなってしまったのだ。

あの時、伸ばした手が瞬に届いていれば、亡くならずに済んだかもしれないのに。

「なんで、なんで私を置いていなくなるの?」

ましてや、彼女なのに。

私を置いて、死なないで欲しかった。

私の隣で、いつまでも笑って欲しかった。

辛い時は、いつもみたいに抱きしめて欲しかった。

「‥‥‥ごめん。瑞希に悲しい思いさせて」

謝って欲しかったんじゃない。

瞬に、生きて欲しかった。

ただ、それだけなのに。

「私、あの時のことずっと後悔してる。だって、瞬に届かなかった。手を‥‥‥」

「手を伸ばしてくれてたんでしょ?」

言いかけて止まった言葉を、瞬が代わりに言った。

びっくりして、思わず目を見開く。

「気づいてたの?」

「うん」

あの時、走りゆく背中で私のことなんて気づいていないと思ってた。

でも、瞬は分かっていたんだ。

私が手を伸ばしたことに。
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