嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 つまり、噂を聞きつけた誰かがさっそく御堂家にご注進したということらしい。

(まぁ、着物にかかわる業界なんて狭いしね)

「ご存じなら、話は早いですね。そういう事情があるので私は銀行に戻らないといけないんです。手当てしてくださってありがとうございました」

 美琴は礼に頭を下げて席を立った。つもりだったが、彼に腕を引かれてまたソファに沈みこんでしまった。

「いくらだ? あきづきを立て直すのにいくら必要だ?」

 興味本位ならばずいぶんと失礼な質問だが、美琴も開き直っていた。

「五千万円です」
「そんなものか」

 五万円と言い間違えただろうか。美琴がそう思ってしまうほど、平然とした顔で礼は言い放つ。さすがに、美琴も少し腹が立ってきた。

「そ、そりゃあ御堂家にとっては五千万ぽっちかも知れませんけどね!うちには、ていうか世間の大多数の人間にとってはとんでもない大金なんです!」
「出してやる」
「へ?」
「その五千万は肩代わりしてやろう」

 美琴はしばしフリーズした。なにを言われたのか、理解が追いつかない。ようやく出た言葉は
「なのために?」だった。




 





< 20 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop