嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
二章 桜に染まる夜
「その~。仰っている意味がよくわからないのですが? 私、耳が遠くなったのかな」

 美琴の口からは乾いた笑いしか出ない。そんな美琴を見ていた礼は訝しげに首をひねった。

「そんなに難しいことは言ってないだろう。単純な交換条件だ。俺は5千万を払う。君は俺の子供を産む」
「いや……お金と引き換えに子供を産むって、ここは現代日本ですよ?」
「さっき、なんでも言うことを聞くと言ったじゃないか」
「それは、常識の範囲内での話です!」
「俺の出した条件は常識の範囲外か?」

 礼は本気で不思議がっている。美琴は頭がクラクラしてきた。

(もしかして、御堂さんってちょっと天然?)

 美琴は居住まいを正して、礼と正面から向き合った。そして、子供を指導する教師のような口調で彼に言う。

「世間知らずのお坊ちゃんである御堂さんに教えて差し上げます。そんな条件は誰がどう見たって非常識です!」
「そういうものか」
「そういうものです」

 世間知らずのお坊ちゃんと失礼なことを言われたのに、なぜか礼は楽しげだった。悪戯な瞳で美琴を見つめ、言った。

「なら、残念だが五千万の話はなかったことにしてくれ」
「そんなっ」
「なんの対価もなしに五千万を出せというのも君の言う非常識ってやつだろう」

 そう言われては、美琴はぐぅの音も出ない。


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