嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「あきづきの問題が片づいたら、すぐにここに戻ってこい」
「わかりました。二、三日後には戻ります」

 ついさっき、礼は美琴の見ている前で、あきづきの口座にポンと5千万を振り込んでくれた。これであきづきは倒産の危機を脱することができるだろう。

「あの、契約期間中もあきづきの仕事は続けて構わないですか?」

 あきづきの従業員は勝司と美琴のふたりだけだ。抜けるわけにはいかない。

「もちろん構わない。君が必要なのは夜だけだしな」

 ほっと安堵するのも束の間、礼の発した夜という単語に美琴は過敏に反応してしまう。

「夜って、そのやっぱりそういう行為が……」

 よくは知らないが、体外受精とかそういう医療的な方法ではダメなのだろうか。美琴が小さな声でそう尋ねてみると、礼はあっさりと言ってのける。

「そういうのは正式な夫婦でないと認められないだろ。君が籍を入れてもいいと言うなら、俺のほうは構わないがな」
「うっ……そもそも正式な夫婦でないのに子供はいいんですか。御堂家的に」

 それは話しが出た当初から疑問ではあった。御堂家ともあろうものが、跡継ぎに美琴のような庶民の血が入ることを許すものだろうか。

「伝統芸能の世界と同じだな。俺の血を継ぐ人間は多ければ多いほどいいという考えだ。そもそも婚姻に関しては、元々日本はおおらかだったろ。ガチガチの一夫一妻制度は西洋の文化だ」
「つまり愛人も婚外子もオッケーだと」
「そういうことだ。それに、あきづきとは古い付き合いだ。君が正式な妻となっても問題はない」
「いや、それは問題ありまくりですから」

 焦りまくる美琴に、礼はふっと柔らかな笑みを浮かべてみせた。

「とにかく、一刻も早く戻ってこい。待ってる」
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