嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「それじゃあ、お父さん。行ってくるね」

 美琴は荷物をまとめて実家を出た。といっても、生活に必要なものはすべて礼が用意してくれるらしいので大きめのリュックひとつで十分おさまった。家を出るときは奇跡が起きて結婚できたとき。そう思っていたのに、まさかこんな形で家を出る日が来るとは美琴は想像もしていなかった。

「あぁ。御堂さんにくれぐれもよろしく伝えてくれ」

 勝司にはもちろん正直にすべてを話すことはできなかった。あきづきの着物のファンである礼が、無期限無利子で援助してくれることになったとだけ伝えた。御堂家に住み込む理由は、多忙な丸代の仕事をしばらく手伝うことになったと嘘をついた。勝司はそれならあきづきの仕事は休んでもいいと言ってくれたが、それは美琴が断固拒否した。

(一日中、御堂の屋敷にいるなんて絶対無理だもん。昼間だけでも日常に戻りたい)

 夕刻に御堂家に到着した美琴を出迎えてくれたのは礼本人だった。多忙で不在がちだという礼がわざわざ出迎えてくれたことに美琴は少し驚いた。と同時に、礼の顔を見たらこの同居の目的を思い出してしまった。

「お、お邪魔します」

 思わず手と足が同時に出てしまうほど、緊張で美琴の身体はガチガチになっていた。

「おかえり。部屋に案内するよ」
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