嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 まるで決闘でも申しこむかのような闘志に満ちた瞳で、美琴は礼を見つめた。

(この心臓飛び出そうな緊張感をもっかい味わうくらいなら、もういっそ今夜で!)

「肝の座った女性は好きだ。では、君の覚悟に応えることにする」

 艶やかな黒い髪、すっと通った鼻筋に流し目の似合う切れ長のアーモンドアイ。麗しすぎる礼の顔面がゆっくりと近づいてくる。鼻先がかすかに触れ合う。

(あ、キス。キスとかするんだ。これはただの契約なのに……)

 美琴より体温の低い、ひんやりとした唇。柔らかで、蜜のように甘い。美琴は思わず「あっ」と小さな吐息をもらした。そのわずかな隙間を割って、彼の舌が侵入してくる。これまで味わったことのないとろけるようなその感触に、美琴は酔わされた。
 礼が用意してくれた桜色の浴衣がするりと肩から落ちていく。

「寒くないか?」

 低く落ち着いた彼の声がやけに官能的に響く。

「す、少し」

 それだけ答えるのが精一杯だった。嘘でも大丈夫だと言うのが礼儀だったのかもしれない。だが、そんな気遣いをする余裕はまったくない。なにもかもが、美琴にとっては初めての経験なのだから。
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