嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「本当に着物の映えるおうちですよねぇ」

 庭も素晴らしいが、室内もどこを切り取っても絵になる。渋い紬も似合うし、
豪華絢爛な大振袖もよさそうだ。
 母屋の一番奥、ここが礼の私的スペースらしい。彼は襖を開けて美琴を招き入れた。

「一番手前のここが君の部屋だ。右の襖は俺の書斎につながる。左が寝室だ」
「ありがとうございます」

 丁寧に掃除され、細々した生活用品まで準備されているその部屋を見たら、離れの部屋がいいなんて本音はとても言えなかった。

「それと、この屋敷にいるときは着物でもいいぞ。あるものは好きに着ていい」
「本当ですか?」

 御堂家のコレクションならさぞ素晴らしいことだろう。人間国宝の作家のものもたくさんあるはずだ。自分が袖を通すのは恐れ多いが、眺めているだけで幸せな気持ちになれる。

「あぁ。それに……」

 礼は美琴を後ろからきゅっと抱きしめた。

「俺も着物のほうが扱い慣れている。着せるのも、脱がすのもな」

 抹茶のほろ苦い香りと彼の体温。抱きしめられた背中はガチガチに固まってしまい、美琴は声も出せなかった。頭では納得したつもりでも、心の準備はまだ全然できていない。

「食事は?」
「あ、まだです」
「ならまずは夕食にしよう。部屋に運ばせるからふたりで食べよう」

 




 






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