嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「見ろ、主役の登場だ」

 礼にうながされて、美琴は前を向く。壇上には若い女性の姿があった。

「あれが篠宮家のご令嬢の篠宮まりえだ」
「あ……着物……」
「本当だ。奇遇だな」

 今日の主役であるまりえも美琴と同じ翡翠色の振袖を着ていた。赤やピンクを選ぶと人とかぶることも多いが、色合いの幅が広い緑系の着物では珍しいことだ。

「まぁでも、同じ色の着物でも全然違うな」
「うっ……ですね」

 まりえはお人形さんのようだった。栗色の髪に薔薇色の頬と唇。ぱっちりとした目がとても印象的だ。美女ばかりの会場のなかでも、ひときわ美しく光り輝いて見える。

(同じ色だからこそ、中身の違いが際立つわ)

 女としての格が違いすぎて、特に惨めな気持ちになることはなかった。自分とスーパーモデルを比べたって仕方ない。美琴はそんな心境だった。とはいえ、礼にはっきりと指摘されてしまうと少し悲しい。

「君のは古典的。あっちはモダン。着物は面白いな」
「え? 着物の話ですか?」
「だって着物の話をしていただろう?」

 礼は首をかしげている。美琴は苦笑してしまった。【着物を着た人間】が全然違うと言われたのだと思っていた。礼は純粋に着物の印象の話をしていたらしい。
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