嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「たしかに! 着物は負けてないですよね」

 蝶の舞うまりえの着物は洗練されていて、華やかな顔立ちの彼女にはよく似合っている。だけど、古風で清楚な印象の美琴の着物も素晴らしい。着物は一枚一枚に違う魅力があり、優劣なんてとてもつけられない。

「着物は?」
「中身は勝負にもならないって感じですけど」

 美琴があっけらかんと言って笑うと、礼は眉根を寄せて不快そうな顔をした。

「中身も負けてないぞ」
「あはは。気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ。篠宮家のお嬢様と戦おうなんて思ってないですし」

 礼は美琴の顔を覗きこむように見ると、ふっと優しく微笑んだ。

「俺は茶の道に生きる人間だからな。ぱっとわかりやすい派手さはあまり趣味じゃない」

 どういう意味なのだろう。美琴が首をひねると、礼は美琴の耳元に唇を寄せた。

「俺の目には、君のほうが魅力的に映っているということだ」
「お、女嫌いって言ってたくせに、どうしてそんな台詞をさらっと言えるんですか!」
「君のアドバイスに従って、素直に心を開いてみただけだ。今の自分も結構気に入っている」

 美琴の胸に、あたたかいものが広がっていく。

(あぁ、やばいな。どんどん深みにはまっていく)
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