嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
一章 藍の誘惑
 薄紅色の地に艶やかに咲く牡丹の花。葉の緑の深みといい、ぼかしの技術といい、ため息が出るほどに美しい。これからの季節にもぴったりだ。美琴は届いたばかりの京友禅の訪問着にうっとりと見入っていた。

「やっぱり富士子先生の作品は別格ね~。この訪問着はどなたにオススメしようかしら」

 美琴の頭にお得意様の顔がつぎつぎと浮かんでくる。

「木原のおばさまにも似合いそうだし、春日さまも絶対好きよね。う~ん、でもこれはやっぱり……一番最初にお声がけすべきは丸さんね!」

 丸さんとは大お得意様である御堂家に仕えている女性だ。丸代という名前なのだが、みんなから丸さんと呼ばれている。彼女はただのお手伝いさんではなく、御堂家の主人から絶大な信頼を得て屋敷の一切合切を取り仕切っているのだ。出入りする外商や業者の窓口も彼女だった。美琴の家もそのうちのひとつだ。

「あの豪華なお庭や渋い茶室に、この着物がどれだけ映えるか。想像しただけでワクワクしちゃう」

 御堂家は茶道の家元だ。表千家御堂流といえばかの千利休を始祖とする名門で、茶道をたしなんだことのある者ならその名を知らぬ者はいない。美琴の実家、呉服屋【あきづき】の大お得意様である。
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