嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 礼はゆっくりと顔を近づけてくる。

「えっと、礼さん?」

 無理強いしないと今言ったばかりではないのか。美琴が困惑していると、礼は悪戯な瞳でクスリと笑った。

「キスはこばむな。これは俺の特権だ」

 唇が触れ合うだけの優しいキスだった。礼のあたたかな愛情が伝わってきて、美琴はなぜだか泣きそうになってしまった。
 その夜は、ふたり寄り添って眠ることにした。礼がその胸のなかに美琴をすっぽりと包みこんでくれる。

「これはこれで悪くないな。君がそばにいると、よく眠れる」

 その言葉通り、礼からはすぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。きっと、彼も疲れていたのだろう。美しい礼の寝顔を眺めながら、美琴は考えた。

(初めて、拒否しちゃった。さっきは早く妊娠すればいいのに……なんて思ってたくせに)

 自分の感情と行動が自分でも説明できない。どうすべきなのか、どうしたいのか。

「ずるいよ、礼さん。自分だけスヤスヤ寝ちゃってさ!」

 自分がこばんだことなどすっかり棚にあげて、美琴は礼に悪態をついた。伏せられた長い睫毛、薄く形のいい唇。無防備な寝顔がいとおしくてたまらない。
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