嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
五章 月白の涙
災いはある日突然やってくる。詐欺師に騙されたときもそうだった。こちらの事情などお構いなしに、来るときには来てしまう。

 美しい微笑を浮かべた彼女がたずねてきたのは、庭で美琴が丸代と楽しく雑談しているときだった。

「こんにちは。礼さんはいらっしゃるかしら」

 上品なネイビーのワンピースを着たまりえに声をかけられ、美琴は目を丸くした。

「まりえさん? どうして……」

 思わず口にしてしまってから、失礼だったかと慌てて口をつぐんだ。でも、なぜ彼女が御堂の屋敷にいるのだろう。礼が呼んだのだろうか。まりえはにっこりと微笑んだ。優しい笑顔なのに、美琴には恐ろしく感じられる。

「それはこちらの台詞だわ。呉服屋のお嬢さんがどうしてここに?」
「それは、その」
「訪問着の納品に来てくれたんですよね。ね、美琴ちゃん」

 答えに困っている美琴を丸代が助けてくれた。丸代は目配せで美琴に合図する。

(そうよね。ややこしい契約のことをまりえさんに話すわけにはいかないし、ここはあくまでも
呉服屋の娘で切り抜けないと!)

「そうなんです! 御堂様はいつもご贔屓にしてくださって、ありがたいことです」
「へぇ。礼さんがそんなにあなたのところを気に入ってるなら、今度私にも持ってきてくださいな」
「はい。もちろんです!」
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