嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 長い沈黙の後に、まりえは口を開いた。

「まぁ。それはそれは、おめでとうございます」

 口元は微笑んでいるが、目はまったく笑っていない。おまけに、額には青筋が浮かんでいる。

(うっ、怖い。絶対怒ってるよー)

 このピリピリと張りつめたような空気を知ってか知らずか、礼は淡々とまりえに対応する。

「ありがとうございます」
「なら、先日の素敵な指輪も礼さんが?」
「えぇ。俺が彼女に贈ったものです。それより、大事な用とは?」

 さっさと用件に入れ。そう言わんばかりの態度だった。彼女への言動を見る限り、礼が女嫌いだというのも嘘ではないのだろう。
 まりえはぱっと顔を輝かせる。

「実は、礼さんに茶道を教えていただこうかと思って! そろそろ花嫁修業もしなくてはいけない年ですし」

 花嫁修業と言うときに、まりえは礼に意味ありげな視線を送っていたけれど礼はまったく気にも留めていない。

「あなたには茶道、華道、日舞と幼少期より立派な師がついているでしょう。俺が教えることなんてなにもありませんよ」
「いいえ。御堂流の次期家元である礼さんに教えを請いたいのですわ」

 結局、この話は礼が折れた。

「なにが目的なのかはよくわからないが、茶道を習いたいというのを否定するわけにはいかないしな」

(も、目的は礼さんしかないと思うけどな)

 まりえは週に四回、この屋敷に通うという。そんなにしょっちゅう来るのかと、美琴は少し気が重くなった。彼女とうまくやっていく自信はあまりない。






 
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