嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 そして、美琴のその予感は的中した。

「礼さん。私のお点前どうでしたか」
「あぁ、所作は美しいですね。さすがに幼い頃から嗜んでいただけある」
「まぁ! 礼さんに褒めていただけるなんて嬉しいわ」

 はにかむように笑うまりえは清楚なお嬢様そのものだ。だが、彼女は礼がいるときといないときでは別人のように態度が違う。美琴はどう対応していいかわからず、彼女に振り回されっぱなしだった。

 ドンという背中への衝撃で、美琴は前につんのめる。すっかり慣れてきて、またかと思うだけだ。

「あら、ごめんなさい。そんな邪魔な場所にいるとは思わなくて」

 何食わぬ顔でまりえは言ってのける。

(いつまで続くんだろう。この地味な嫌がらせ……)

 我慢できないほどではない。というのが逆に厄介なのだ。こんな些細なことで礼を煩わせるのも申し訳ないし、告げ口みたいなマネはあまりしたくない。

 それに、まりえの気持ちもわからなくはなかった。

(ぽっと出てきた女が好きな人の婚約者だなんて言い出したら、そりゃ腹も立つよね)

 おまけに美琴は本物の婚約者ではないのだから。 

 美琴はまりえの意地悪をあまり気にしないようにした。なにを言われようとなにをされようと、ニコニコ笑って受け流した。でも、それは逆効果だったみたいだ。まりえのイライラは日に日に増していく。そして……。
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