嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「紅茶とお菓子をお持ちしました。どうぞ」

 美琴はまりえの前に温かい紅茶の入ったカップを置いた。レッスンを終えた彼女に出すようにと礼に頼まれたのだ。だが、まりえはそのカップを勢いよく振り払った。お茶が自分にかかるものと美琴は身構えたが、美琴に被害はなかった。代わりに甲高い声をあげたのはまりえだった。
 見れば、彼女の白魚のような手が真っ赤になっているし、瑠璃色の訪問着も濡れてしまっていた。

「だ、大丈夫ですか? すぐに氷を持って来ます」

 美琴が慌てて立ち上がると、まりえの悲鳴を隣室で聞いていた礼も部屋にやってきた。

「どうした?」
「あ、まりえさんが……」

 美琴が説明する前に、まりえはドンと礼の胸に飛びこんだ。涙で濡れた瞳で礼を見上げている。

「もう……限界です。美琴さんが、私に熱いお茶を……わぁ〜」

 まりえは礼の胸に顔をうずめて泣き出した。

「私、美琴さんに嫌われてしまったみたいで……きっと私が邪魔なんですよね」

(ま、待って。嫌ってるのはそっちで……ていうか、お茶もわざとなの? そこまでする?)

 まりえの身体をはった嫌がらせに美琴は呆然とするしかなかった。
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