嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 美琴は御堂家に届ける着物を丁寧に畳んでいく。そして、必ず手紙を添える。どのお客様にもしていることだ。ご購入いただいたお礼とその着物の魅力を手書きで綴っていく。顧客は年配の方が多いので美琴の手紙はわりと好評なのだ。

「あら、美琴ちゃん。いつもありがとね」

 丸代はその名のごとく小柄でぽっちゃりとした体形をしている。いつも朗らかで気持ちのい女性だ。

「こんにちは、丸さん。羽織袴をお届けに参りました」
「礼さんのものね。今日は珍しく屋敷にいらっしゃるからすぐに渡すわ」
「はい。とても素敵なのできっと気に入ってもらえると思います」

 美琴と丸代はしばし立ち話に花を咲かせた。富士子先生の新作の話をすると、さっそく京都にいる奥様に連絡を入れてくれると約束してくれた。

「それでは、これで。なにかあればなんなりとお申しつけください!」
「えぇ。気をつけてね」

 丸代がいつもいるのは屋敷の奥にある離れだ。その離れから正面の門までは、軽い散歩くらいの距離がある。この散歩が美琴はお気に入りだ。

(はぁ~。いつ見ても見事なお庭ね)

 茶道の家元のお屋敷なだけあって、決して派手ではない。松や枯山水が絶妙なバランスで配置され、まるで一枚の水墨画のようなのだ。渋くて粋で、何度見ても見惚れてしまう。
< 9 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop