嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 彼女はなにを言うつもりなのだろう。美琴の心臓はザワザワと不穏な音を奏ではじめた。

「両親から礼さんのご両親に話してもらうつもりよ。私と礼さんの結納を急ぐようにね」

 まりえは勝ち誇ったような笑みを浮かべ美琴を見た。そして、その瞬間にようやく気がついたようだ。

「あなたのそのお腹……まさか……礼さんの?」

 美琴が答えるよりも早くまりえは激高した。

「ふざけないで! 彼は私と結婚するのよ。私は篠宮まりえよ。そんな赤ん坊は……」
「美琴ちゃん、危ない!」

 丸代が庇おうとしてくれたが一歩遅かった。まりえに力任せに突き飛ばされた美琴はそのまま後ろに倒れこみ、腰を強打した。

「きゃあ。美琴ちゃん!」

 丸代の悲鳴に周囲もザワザワとしはじめる。

「妊婦さん? どこの方かしら」
「いま、まりえさんが突き飛ばしたわよねぇ」

(起きあがらないと。せっかくの礼さんのお茶会が台無しになっちゃう)

 そう思うものの、痛みで身体に力が入らなかった。

(ぶつけたのは腰。お腹じゃないけど、でも赤ちゃんになにかあったら)

 美琴は不安でたまらなくなり、お腹をぎゅっと両手で抱きしめた。

「誰か! 早くこの人を追い出して。この素敵なパーティーの邪魔だわ」

 まりえは容赦なく美琴に言い放つ。

「出ていくのはお前のほうだ」

 ぞっとするほど冷淡な声が聞こえたかと思ったら、美琴の身体はふわりと宙に浮いた。



 
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