嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 大粒の涙が美琴の頬をつたい流れ落ちていく。堰を切ったように涙がとまらなくなる。うわ〜んと子供みたいな声を上げて美琴は泣いた。
 礼はその涙を優しく拭いながら、美琴に問う。

「この涙の意味を、教えてくれるか?」

 美琴はこくこくと大きくうなずく。

「あのとき、私は一番大切なことを伝えていませんでした」

 あの茶室で、まずはこれを伝えるべきだったのだ。今からでも間に合うだろうか。礼はわかってくれるだろうか。

「私、礼さんを本気で好きになっちゃったんです。本当は礼さんと赤ちゃんとずっと一緒に暮らしたかった。でもそれは叶わないから……それならせめてと」

 そこまで言った美琴の身体を礼は全力で抱きしめた。ぎゅっと強く、背骨が軋むほどに。

「れ、礼さん。そんなに強くしたら赤ちゃんが……」
「あぁ、そうだな。悪い」

 礼は少しだけ力を緩めてはくれたが、決して美琴を離そうとはしない。

「君は呆れるほどの正直者なくせに、どうして肝心なところは正直に言わないんだ」
「ごめんなさい」

 礼に怒られ、美琴はしゅんと肩を落とした。

「君が出て行ってからというもの、どうして君に嫌われてしまったのか。どうしたら戻って来てくれるのか。そればかり考えてしまって、なにも手につかなかった」
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