消えない傷・消えない痛み

**事故


アメリカに渡って
毎日が本当に大変な日々だった。

日本で優秀だと言われた俺だが
到底太刀打ちできないほどに
優れた人材が沢山いた。

大学で勉強しながら
医療に携わる

並大抵の事ではなかった。

寝る間も惜しんでやらないと
追い付く事ができず
離れた恋人である
美桜のLINEにも
反応できずにいた。

そんな日々が一年過ぎ·····

二年過ぎ·····て···行き···

学べるものは学び
手術にも次々に入れて貰う。

日本の事を思う暇もなく
美桜との連絡も
チラリと見るだけだ。

吸収できる事は
全て吸収したい
そんな思いだけが
俺を突き動かしていた。


三年目になり
帰国の話が出始めた。

やっと、帰れるか
この時には、美桜との連絡も
途絶えていた。

いや、美桜からはLINEは
来ていたが·····
開く事も·····返す事も·····
していなかった。

なぜ?
それは、ただの甘えだ。

美桜なら、わかってくれる
美桜なら·····と。


その日は、大きな手術を終わらせ
仲間とアメリカに来て
初めて飲みにでた。
明日は、初の休みだった···から···

かなり飲み泥酔状態だった俺は
地下鉄に乗るのに
階段を降りる時に人とぶつかり
階段を落ちてしまった。

意識が戻った時
俺がいたのは病院のベッドの上で
女性が二人
俺のベッドの横に立っていた。

どうやら、一人は俺の母親らしく
もう一人は、ぶつかった女性らしい。

俺と母親と言う人に何度も
頭を下げる女性

俺の頭の中は、空っぽで
記憶がなくなっていた。

大学側も病院側からも
かなり心配されて
検査を色々したが
記憶が戻ることはなかった。

医師としての教養と腕には
問題なく
自分の名前、家族、過去···だけが····
すっぽりと抜け落ちている
そんな状態だった。
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