愛され王女は王の道をゆく
 考えたくもなかった。

 女性が騎士になることは、別に珍しい訳ではない。

 元にアナスタシアの《円卓の騎士》にも、一人女性がいたはずだ。

 しかし、王たるものが騎士になるなど、誰が考えるだろうか?


「そう、王もまた立派な騎士なのよ。
 なにせ、国と民を守るために矢面に立つのだから、ハリボテでは限界でしょうに」


 女王は立ち上がりゆっくりと、アルバート伯爵へ近づいていく。

 光り輝く剣を上へと振り上げる。今ならこれが魔術で生み出された物だと分かる。

 史実によれば、熟練の魔術師は、一人で騎士何十人分もの力を持つという。

 護衛がいらないというのは、紛れもない事実だったのだ。


「私はどんな罪をこの身に背負うことになろうとも、この国を守ると《円卓の騎士(みんな)》に誓ったの。だから――」


 女王の剣は、無慈悲に振り下ろされた。

 これは反逆者への当然の報いだ――と、言えないのがアナスタシアの優しさであった。

 敵は自分に害を及ぼすのであれば、排除しなければいけない。
 だけど、敵を作らない努力もまた必要なのだ。

 剣を仕舞った女王は、窓へと近づき城下を見下ろす。

 戦いは収束へと向かっていた。

 国民への被害は、ここから見える範囲でも相当なものだろう。

 果たして自分の決断が正しかったのか、アナスタシアには分からなかった。

 それでも決めた道を曲げずに進む気概がなければ、王になれるはずもないのだ。

 この数年の出来事を振り返りつつ、女王はまた前へ進む。


 決して逃げることの出来ない王の道を――

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