夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
6. 圭
「珍しい」
不意に聞こえた声に振り向くと、小田島さんがパーテーションの横に立っている。
「久保田が女に逃げられた」
自分で言って、おもしろくなったらしい。吹き出している。
「その言い方、ちょっと違くないですか?」
「違わないだろ、実際逃げられてるし」
「まあそうですけど」
「久保田から逃げる女ってのも珍しい」
確かに珍しい。女性に逃げられたのは、初めてかもしれない。
「久保田が女に構うのも珍しい」
「そうですか?」
「しらじらしいな、自覚あるんだろ?」
確かに、それも珍しい。
自覚はある。
「あの人、いい人材だって聞いてるからな。久保田は逃がしてもいいけど、会社からは逃がすなよ」
「わかりました」
小田島さんは、少し長く僕の顔を見ていた。観察されている。
「なんですか?」
小田島さんがニッと笑う。
「いや、らしくないことしてるから、ちょっと心配してみただけ。大丈夫そうだからいい」
そう言って戻ろうとして、『あ』と振り返る。
「言っとくけど話は聞こえてないからな」
笑って答えた。
「わかりました」
いつかの、小田島さんの気まずそうな表情を思い出す。僕と須藤さんの会話を聞いてしまった、バツの悪そうな顔。
もう何年も前のことなのに、鮮明に思い出せる。
あれから、一歩も進めてないみたいだ。
でも、なんだか変わる気がしていた。