夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
7.


 次の日、土曜日。
 中村さんが、家に遊びに来た。
 11時に駅で待ち合わせをして、ちょっと買い物をしてから、家へ向かう。
 お昼ご飯に太一の親子丼を食べる、という計画で、食後のデザートは、中村さんが太一の好物チーズケーキを買ってきてくれている。

 道すがら、昨日の久保田さんとのことを報告したら、中村さんがチッと舌打ちした。
「あいつ、やっぱり……」
 ぶつぶつ言っているけど、その後は聞き取れない。
「やっぱり、なんですか?」
 聞き返したら、ごまかすように笑顔を返された。
「いや、なんでもないです。それより、あいつはなんて?」
「特には……だって、何も言いようがないでしょう?」
 住むところがなくなりそうなんですって言われたって、そうですかとしか言えないよね。
「……まあそっか」
「話し終えたら家に着いちゃったし。結局送ってもらう形になって」
「それだけですか?」
「え、他に何かありますか?」
「あいつは油断できませんからね。何かされてませんか?」
「何かって……」
 苦笑するしかない。何もされてないと思うけど。
 そういえば。
「中村さんは、どうして久保田さんのことを敵認定してるんですか?」
「てきにんてい……?」
 中村さんの目が点になる。
 あ、そういえば『敵認定』って、久保田さんが言ってたんだった。
 私がそれを思い出しているうちに、中村さんは『敵認定』を脳内漢字変換したようだ。
「綺麗な顔した男は嫌いなんです。特にあいつはさわやかに振る舞ってますけど、お腹真っ黒ですからね。どうして他の人はそれがわからないのか、不思議でしょうがなくて」
 腹黒だってわかってても、あの顔ではモテますよ、と思ったけど、中村さんの話が止まらないので言えなかった。
「あいつ、遊ぶ友達は多いくせに腹割って話せる人が少ないんですよ。珍しく何かで失敗しても、愚痴をこぼす相手もいない。愛想良くすることが体に染み付いてるから、能面も外せない。馬鹿ですよね。さっさとぶっ壊しちゃえばいいのに」
「……中村さん」
 気付いているのか、いないのか。
 ん?と私を見る中村さんは、普通の顔だ。
「良き理解者ですね、久保田さんの」
 中村さんは、ゲーという顔をした。
「やめてください。横から見てるから、冷静に分析できるだけですよ」
 憎まれ口叩いてるけど、結局は助け合う。
 姉弟みたい。……なんて言ったら物凄い勢いで否定されるんだろうな。
「そんなに理解してるのに、敵認定なんですね」
「ああ……」
 中村さんの勢いが止まった。
「どうか、しましたか?」
「いえ」
 私の顔をじっと見ている。
 本当に、どうしたんだろう。
「中村さん?」
「いえ、なんでも。とにかくムカつくんですよ、あいつは」
 そう言って、私の肩に両手を置く。
「あいつに何かされたら、すぐに言ってくださいね」
 真剣な顔だ。何かって、何をされるって言うのか。
「は、はい」
 苦笑して言うと、中村さんは満足気に笑った。
「ところで、今言うのもなんですけど、いきなり遊びに来ちゃって、太一君は大丈夫ですか?」
 中村さんが家に来ると決まったのは、昨日の夜。太一と2人で、慌てて片付けをしたのだった。
「別に平気でしたよ。……あ」
 そうか、中村さんは。
「綺麗な顔した男は嫌いなんでしたよね……?」
「はあ、まあ……」
「あの、母親の私が言うのもなんですけど、太一はですね……」




< 15 / 83 >

この作品をシェア

pagetop