夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
家に帰って、中村さんが買ってきてくれたチーズケーキを食べた。
おいしくて、太一も私もペロッと食べてしまった。
自宅の近くの店なんだそうで、気軽に買いに行ける距離ではなく、太一は残念がっていた。
中村さんは、次に遊びに来る時にも買ってくる、と約束していた。
中村さんは意外にもゲーム好きで、幅広いジャンルのゲームをするらしい。
太一とも話が合って、2人で格闘ゲームを始めて夢中になってプレイしていた。
マンションを見に行っていたのもあって、時間はあっという間に過ぎてしまい、夕ご飯の時間になったけど、引き止めて、一緒に食べることにした。
太一もまだ遊びたいらしかったし、私もおしゃべりしたかった。
夕ご飯は、2人がゲームをしている間に私が作った。
と言っても、材料を切っただけの寄せ鍋だ。
鍋の素を、太一の指示に従ってブレンドして、出汁昆布も入れた。
野菜各種と、揚げ物各種、それから太一が作っておいたらしい肉団子も入って、鍋がいっぱいになってしまったけど、3人ならすぐになくなってしまう。
今日は中村さんだけど、もし久保田さんだったら、とつい想像してしまった。
一体どんな食卓になるんだろう。
夕ご飯の後、2人で中村さんを駅まで送った。
中村さんは別れ際に、考えてたんですけどね、と私に言った。
「いい部屋だったと思います。家賃のことを除けば、決めちゃってもいいんじゃないかな、っていうのが、第三者的意見です」
「……そう、でしょうか……」
「私は、家賃のことは、甘えていいと思いますよ」
「えっ?」
「実際、凄く助かると思うし。家賃は安いに越したことはないですよ。太一君も転校しなくて済むし、小平さんも、楽でしょう?わざわざ苦労しなくても、身も心も楽な方を選んだらいいと思います」
驚いた。
あんなに、怪しいとか信用できないとか言ってたのに。
「あいつの『困ってるから力になりたい』って言うのは、信じていいと思います」
やっぱり、なんだかんだ言っても、中村さんは久保田さんを信頼してる。
中村さんは、ニッと笑った。
「利用できるものは利用する、って、前に小平さんが言ってたでしょ?今はその時じゃないかと」
前に、雑談の中で言ったことがある。
『太一が自立するまでは、利用できるものはなんだって利用します』
そうか。私、そう言ってた。
「太一君、また遊ぼうね。とりあえず、また明日」
駅に着いて、中村さんが太一に微笑んだ。
太一は頷く。
「えっ明日?」
聞いていない予定に驚くと、太一がぼそっと私に言う。
「オンライン」
「ああ……なんだ、びっくりした」
中村さんはにっこりする。
「時々遊ばせてくださいね」
「こちらこそ、ありがとうございます。よろしくお願いします」
太一は、私には滅多に見せない笑顔で、中村さんに手を振っていた。
中村さんも負けないくらいいい笑顔を残して、改札の中に消えていった。