夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
引っ越しの日はすぐに来た。
当日、新居での荷物の引き取りを申し出た。
最初は「そんなご迷惑はかけられません」と断られたけど、退去にも立ち会いが必要だし、アパートも掃除したいと言っていた。近所だから行ったり来たりすれば大丈夫、と言うけど、考えただけでも大変そうなので、なんとか説得した。
大家さんとは挨拶もちゃんとしたいんじゃないかと思ったから、ゆっくりでいいと彼女には言った。
荷物は少なめ。大型家電や家具は買い替えずにそのまま使うと言っていたから、その分嵩張ってはいるけど、必要な物しかない、という印象。
すぐに運び終わってしまった。業者を帰して、母子を待つ。
待っていたと言ったら気を遣わせてしまうから、業者は帰ったところ、ということにして、彼女達を迎えた。
そのまま荷解きを手伝う。
やっぱり荷物は少ないから、夕方には終わってしまった。
僕には見慣れた空間に、あの落ち着く家の家具がある。
ちょっと奇妙な感覚を味わっていると、彼女が横で呟いた。
「引っ越ししたて感満載」
ひとまず終わった満足感からか、彼女が笑顔になっている。
僕も嬉しくて、笑って言った。
「そのうち馴染んできますよ」
そう。ここに、この部屋に、願わくば僕の隣にいることが、普通になってくれたら。
彼女の笑顔を見ながら、そう思った。