夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
システム2課に挨拶をした後、まだ用事があると言う西谷さんを残してデスクに戻った。
早速頼まれた仕事を進める。さくさくやらないと今日中には終わらない感じだ。
集中して作業する。
時間は結構経ったらしい。中村さんに背中をつつかれる。
「小平さん、時間いいの?」
「えっ?」
「定時ですよ」
時計を見たら、定時ちょうどだった。
「あっ、えっ」
パソコンの画面と時計を見比べる。
あと30分くらいなんだけどなあ……仕方ない、残業はできないし、明日少し早めに来よう。
あー終われなかった、とため息をついたら、中村さんが笑った。
「すっごく集中してたから、声かけちゃいけないかと思った」
「今日中に終わらせたくて、頑張ってたんですけどね」
「いいんですよ、だってそれまだ納期は先でしょ?仕事より太一君の方が大事」
そう言って笑う中村さんは可愛い。
「今日は私も帰るので、駅まで一緒に行きましょう」
「中村さんは終わったんですか?」
「いや全然。煮詰まったんで、明日にします」
中村さんは、こういう時は思い切りがいい。
私も見習おうかな、と思うくらいだ。
私達は帰り支度をして、フロアを後にした。
「家はどうですか?住み心地とか。まだ1週間もたってませんけど」
エレベーターを待っている間に、中村さんに聞かれる。
「快適です。広いし綺麗だし。広過ぎて落ち着かない時もありますけど」
「お風呂が、ボタン押すと自動で入れてくれるって、太一君が感動してましたよ」
「そうなんですよ。私もそれは感動しました」
「私も、実家を建て直した時に自動になって、感動しましたよ」
あはは、と2人で笑い合った。
エレベーターを降りて、駅に向かって歩き始める。
と、中村さんが声を潜めた。
「あいつはどうですか?」
一瞬『あいつ?』と思ったけど、すぐに久保田さんのことだとわかった。
「どうって、良くしてもらってますよ。買い物に連れてってもらったり、太一のベッドを組み立ててもらったりして」
中村さんはふうんと頷く。
そして、更に声を潜めた。
「何かされてませんか?大丈夫ですか?」
「何かって、なんですか」
「変なこと。怪しいこと」
なんだそれ、と思いながら軽く笑う。
「特に何もないですよ。ウチに何かしたって何も出ませんよ」
「『ウチ』じゃなくて。小平さんに」
「私?」
「そう、歩実さんに」
何を言われてるんだろう、と一瞬思ったけど、すぐにわかった。
「やだ、私に何かなんて、ある訳ないですよ」
笑いながら言った。
だって、久保田さんだよ?女性ならよりどりみどりの人なのに、わざわざ子持ちを相手になんてしないよ。
中村さんは、私の笑いを聞きながらぽかんとして、でもすぐに一緒に笑い出した。
「あいつのことはともかく、歩実さんは魅力的なんだから、自分を卑下しちゃ駄目ですよ」
「え……?」
笑いが止まった私に、中村さんは静かな笑顔を見せる。
「ほんとですからね」
その笑顔はとても素敵で。
顔がほてってしまった。
「な、中村さんてば、嬉しいこと言ってくれる〜」
照れ隠しにはははと笑ったら、中村さんも笑った。
「歩実さんも、美里ちゃんって呼んでくださいよ。太一君みたいに」
「えっ、じゃあ……美里ちゃん」
そう呼んだら、中村さんは嬉しそうな笑顔になった。
凄く可愛い。でも、こっちは凄く照れくさい。
「なんか、照れますね」
「ほんと。じゃあついでに、敬語やめちゃいましょ」
「あ、それは私も賛成」
いつ言おうかなと思ってたから、それも凄く嬉しい。
なんだか、ちゃんと友達になれたみたいだ。
太一が生まれてから、ママ友以外の友達は初めて。
こんなに嬉しいことだとは思わなかった。
嬉しさがそのまま顔に出る。
美里ちゃんも、それは同じのようで、2人で笑い合った。