夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
13. 圭
自分が、こんなに嫉妬深いとは思わなかった。
むしろ女性には淡白な方で、そう言われることも多かった。
違ったのは、あの人の時だけ。
今までは、そうだった。
西谷さんと笑い合っている彼女を見た瞬間、2人の間に入って引き離したくなった。
彼女を覆って、笑顔を見せたくないと思った。
僕と彼女は、恋人でもなんでもない。
だから、彼女が誰と歩こうと、誰と笑い合おうと、僕にはそれをとやかく言う権利は無い。
しかも会社の中だ。仕事だ。西谷さんは彼女の上司だ。普通に、にこやかに話しているだけだ。そんなの、大人なら誰だってする。僕だって。
頭ではわかっている。
だけど、頭の中は沸騰した。
抑えろ。
今の僕には嫉妬する権利は無い。
自分に言い聞かせて、言葉を交わす。
普通に、したつもりだった。
「久保田君」
総務で用を済ませて、頭を冷やすためにコーヒーを買った。自動販売機からコーヒーを取り出したら、西谷さんが後ろにいた。
「お疲れ様です」
努めて平静に、いつも通りにしたつもりだった。
西谷さんは、僕と目が合うとビクッとして、苦笑した。
「あのさ、えっと……」
困ったように自販機に小銭を入れる。
僕と同じコーヒーのボタンを押して、『あっ』と思い付いたように声を上げた。
「先週さ、大学のプチ同窓会があって、いろんな人と久しぶりに会ったんだよ。それで、元カノにも会って、あっちもフリーで、なんかちょっとヨリ戻そうかみたいなことになっててさ、今日も実は仕事の後に約束してるんだ、よね……」
勢いよく話し始めたのに尻すぼみになって、僕の顔色を窺っている。
なんの話だ。
もしかして。
だから彼女に気がある訳じゃないよ、と言いたいんだろうか。
僕の気持ちを知られた上に、気を遣わせているということか。
じゃあ、さっきは普通にしてたつもりだったけど、普通になっていなかったってことだ。
まあいい。今回は隠す必要もないし、そのつもりもなかったから。
にっこり笑ってみる。
「元サヤですか。良かったですね」
西谷さんはホッとした顔をした。
今のはちゃんと笑えていたらしい。
「しばらく彼女いませんでしたしね」
西谷さんは飲み会の度に愚痴っていた。
「そうなんだよ。別の人とはあんまり長く続かなかったから、あいつとなら続くのかなって思ってる」
照れ臭そうに笑っている。
「やっぱりうらやましいからね、結婚した友達も多いし。あと本田さんと須藤君見てるとね」
「あの2人は本当に幸せそうですからね」
「ほんと、付き合う前からそうだったからね。俺もああなりたいよ」
古傷は、もう痛まない。
彼女がいるから。
「僕もです」
そう言うと、西谷さんはちょっと驚いた顔をして、そして笑った。
「上手くいくといいね。お互いに」
「そうですね」
コーヒーは持ったまま、西谷さんは去っていった。