夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
さっき西谷さんといた彼女が怯えた感じだったのは、きっと僕のせいだ。
漏れた嫉妬の感情を、彼女も受け取ってしまったに違いない。
どうフォローしようかと思いながら仕事を終えて会社を出ると、目の前に彼女がいた。
中村さんと一緒だ。
仲良さそうに話しながら歩いている。
距離が近い。
時々顔を寄せ合って、何か話して笑い合う。
彼女は完全にリラックスモードで、太一君といる時に近い雰囲気を醸し出している。
僕といる時とは違う。
そう思ったら、また嫉妬心が顔を出した。
待て、相手は中村さんだ。
中村さんは、女性に寄りがちな傾向はあるけれど、性的にはノーマルだ。これは本人に確認済み。何故女性に寄っていくのかというと、可愛いから、やわらかいから、気持ちいいから、という理由だった。同じ理由で、小さい子も好きらしい。
本人は特に気にしないらしいけど、一般的な女性とはちょっと違うという自覚はあるんだそうだ。ちなみに動物は臭いが駄目なので、写真か動画がいいらしい。
だから、僕が嫉妬するべき相手じゃない。
頭ではわかってる。
彼女は中村さんと友達なんだから。
距離が近いのは当然だ。
リラックスもするだろう。
でも、一度顔を出した嫉妬心は、そう簡単には引っ込んでくれない。
そのまま、彼女達の後ろを歩く。
駅に着いて、2人は手を振って別れた。
2人共、楽しそうな笑顔だった。
僕が側にいる時は、どんな顔だっただろう。
あんな風に、笑っていただろうか。
少なくとも、今日は怯えさせてしまっている。
なるべく感情は出さないように、表面を整えて、声をかける。
振り向いた彼女は、僕の顔を見て、また怯えた。
駄目だ、隠し切れていないらしい。
押し殺せない嫉妬心を持て余して、電車に乗った。
何かを話せば、心の中を全てぶちまけてしまいそうで、怖くて口を開けない。
流れる景色を眺めながら、電車を降りた後はどうしようかと考えていた。さすがにマンションまでの道を無言で通すのは気まず過ぎる。
当たり障りのない雑談は得意としていたくせに、今は何を話したらいいのかわからない。
次はもう最寄駅、というところで、彼女が鞄からスマホを取り出した。
画面を見て、息を飲む。でも、深刻な感じではない。
ぱっと花が咲いたように笑う。
心の底から嬉しそうな表情。
それを、僕にも向ける。
閉まっておきたい。と思った。
そんなことは知らない彼女は、無邪気な笑顔で僕にスマホを見せる。
画面には、中村さんからのメッセージ。
『千波先輩、無事に赤ちゃん生まれたそうです!元気な男の子‼︎』
……ああ、良かった。
あの人は幸せだ。
愛する人がいて、その人に愛されて。
そんな風に、僕も彼女と、なれるだろうか。
太一君も一緒に、なりたいと、思う。
彼女と目が合う。
きっと今は、同じ笑顔になれてるはずだ。
そのことが、凄く嬉しかった。