夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
家に着いたのは午前1時近かった。
結局食欲が出なくて、夕ご飯は食べないままだ。
力が入らなくて、シャワーをざっと浴びて、早々にベッドに入る。
まだ、小平家に夕ご飯を食べに行くようになって1週間もたってない。
それなのに、あの時間は既に日常になっていた。
甘い匂いがして、あったかくて安心する、芯からリラックスできる時間。
もう、あの時間を過ごすことはできないんだろうか。
そうしてしまったのは自分だ。
わかっていたのに、くだらない嫉妬をして、焦って理性を失った。
後悔しても、しきれない。
ベッドの中で、ため息をつく。
中村さんの深いため息を思い出した。
そういえば、言葉の意味ばかり考えてたけど、中村さんはどうしてわざわざあれを言いに来たんだろう。
あの親子を不幸になんて、僕は絶対にしない。
『その言葉、一生忘れるんじゃないわよ』って、中村さんが言ったんじゃないか。
それなのに『まだ有効』?
どういうことだ?
中村さんは、彼女から何かを聞いているはずだ。僕が彼女を抱きしめたことや、彼女に拒否されたことを。
その上で『まだ有効』と、わざわざ言いに来た。
僕がしたことが、彼女達を不幸にしてしまったということか。
確かに彼女を動揺させたし、振り回してしまった。今日は夕ご飯を断ったし、太一君にも迷惑をかけた。
『少しでもマイナス要素があったら、即抹殺』だったな。
でもそう言う割には、そのまま去って行った。
『意味は自分で考えて』と言って、考える時間を与えていった。『即抹殺』じゃない。
それに、マイナス要素はあったとしても、不幸にしたと言えるほどではないと思う。
じゃあ、一体なんなんだ。何が言いたかったんだ。
考えても考えてもわからなくて、そのまま眠ってしまった。
夢の中でも考えていて、全く眠った気がしないまま、目覚ましのアラームが鳴った。
鏡の中の自分は、ひどい顔をしていた。
寝不足に栄養不足。これでは今日も仕事にならなそうだ。
そうは言っても、やらなきゃいけないことはある。休む訳にはいかない。
太一君のご飯が食べたい。
心底から、そう思った。