夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
昨日の夜、太一と2人で夕ご飯を食べた。
メニューは、厚揚げ入り肉野菜炒め、白菜のおひたしサラダ、大根とワカメの味噌汁。サラダは昨日の残り物。
2人きりは久しぶりだと感じたけど、久保田さんが来るようになってからまだ1週間もたっていない。
「これ」
太一が肉野菜炒めを指差す。
「作り過ぎたから、明日の弁当に入れて」
「……3人分作っちゃった?」
「量の調節、慣れないと難しい」
「2人分のつもりが3人分になっちゃったってこと?」
太一はご飯を口に入れて頷く。
「そっか……わかった」
その後は、無言。テレビの音だけが流れる。
別に珍しいことじゃない。今までだってこんな感じだった。
でも、部屋は妙に広い。静かだ。
テレビ番組の内容は全く頭に入ってこない。
太一も、見ていないようだった。
「おいしいよ、太一」
そう言うと、太一は頷く。
そして、また沈黙。
そのまま、夕ご飯を食べ終えた。
太一が食洗機をセットしている横で、私はナベを洗う。
「あのさ」
太一の動きが止まった。こっちを見ている視線を感じる。
私は、自分の手元を見たまま言った。
「昨日、ごめんね。美里ちゃんから聞いた」
太一の反応はない。視線だけ感じる。
「迷惑、かけないようにするから」
太一は黙ったまま。
私は洗い終わったナベを水切りシートに置いた。
「……別に、迷惑じゃない」
私が太一を見ると、今度は太一が視線をそらした。
食洗機のスイッチを押す。
「ちょっと困っただけだから」
仏頂面で言う。
「久保田さん、また来るんだよね?」
そう聞かれた。
その一言で、太一が久保田さんを受け入れていることがわかる。
太一も、部屋が広いって思ったのかな。
「うん……多分ね」
曖昧にしか答えられない自分が、情けなかった。
だから、昼休みに話そうと思った。
時間に余裕はないけど、今日の夕ご飯の時には、太一にはっきりと結果を言いたい。そう思って。
結局話せなかったけど。
また明日、かな。今日は体調が悪いみたいだし。