夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
生まれた時から、彼はイケメンと言われていた。
まず産婦人科の看護師さん達から代わる代わる抱っこされ、抱っこの権利をかけてジャンケン大会が繰り広げられる程だった。
少し成長すると、その笑顔で保育園の先生やママ達を虜にし、おしゃまな女児たちのアイドルとなった。
彼を取り合って女の子達が喧嘩しようものなら、自身の笑顔でその場を収め、みんなで仲良く遊んでいたらしい。それを見た先生方は、更に彼の虜になったと言う……。
近所を散歩すれば、おばあさまおばさまおねえさま達に声をかけられ、お菓子をいただいたり、買い物すればおまけが必ず付く。
その魅力は男性相手にも発揮された。
彼は裏表がなく、何事も一生懸命に取り組む。
友達思いで、喧嘩をしてもきちんと謝ることができ、嘘をつかない。
女の子に人気はあるけど、媚びることなく、男の友情を優先する。
幼いとはいえ、彼は『男に好かれる男』の要素を持っていたのだ。
小学校に上がれば、周りがみんな親切にしてくれて、歪むことなく成長してきた。
若干のやっかみはあったらしいが、彼自身の魅力により、そのやっかみはどこかへ消えてしまっていたらしい。
この彼の性質は、母子家庭の我が家には非常にありがたいことで、おかげで若過ぎる母親、しかも未婚のシングルマザーでも、偏見の目で見られることも大変少なく、なんとかやってこられたのだった。
太一は、自分の子だと信じられないほど良く出来た子だと思う。
私の容姿は十人並み、頭も良いとは言えないし、取り柄は根性と前向きなこと。
太一と似ているのは、両手足の爪の形だ。これはそっくり。これがなかったら、我が子とは思えていなかったかもしれない。
2人共、良く言えば前向きというか楽天的、物事を深く考えないところがあって、そのせいで失敗することもあるけれど、のんきに暮らせるからまあいっか、という感じ。
太一の成長は順調で、今は思春期の入口。
私に対してはぶっきらぼうだけど、男の子なら普通のことらしく、周りのママさん達も同じようなことを言っている。
でも、傘を持ってるのにわざと雨に濡れたり、道端で透明な石を拾ってきて「宝石だ」と眺めていたり、友達と横断歩道の白いところだけをぴょんぴょん飛んで渡る途中にぶつかり合って転んだり、まだまだおバカなことをして楽しんでいるらしい。中身はよくいる小学生男子だ。
この点に関しては、私はとてもホッとしていた。
なにしろ、とにかく顔がいい。
いつの時でも女の子の人気はダントツだ。
誕生日にはプレゼントをたくさんもらってくるし、中には家まで届けに来る子もいる。
バレンタインには山ができるほどチョコをもらってくる。お返しが大変で、その時期は憂鬱になるくらい。
まだ5年生なのに、ラブレターはしょっちゅうもらってくるし、告白されたこともあるらしい。お相手は、近所の公園で会った幼稚園児から、登下校中の女子高生まで。幅広い。
モテる、というのはこういうことか、と感心はするものの、余りにモテ過ぎて、性格や女性観が歪んでしまわないかと心配になった。
太一の父親がまさにそういう男で、顔が良いだけのクズ男、という名札を貼って歩けばいいのに、というくらいのクズだった。
だから、太一には、とにかく周りの人への思いやりを忘れないこと、みんながいてこそ自分がいること、感謝と共に日々を生きていくことを教えてきた。
幸いその教えは上手く浸透しているらしく、今のところまっすぐないい子に育っている。
このまま成長して、どんな形でも、幸せになってくれればいいな、と母は願うばかりだった。